我が国には熱心でハイレベルな真空管マニアが大勢いて、「カーブトレーサーを使ってみたい。」と考えている人も、潜在的には多いのではないかと思います。
ではカーブトレーサーがなかなか普及しない理由は何か。それは実用的なものが無いせいでしょう。いくらパソコンソフトの中に入っていても、高電圧に対応した端末無しでは、真空管の扱う1000V前後にアクセスできません。
則ち電流特性のY軸は測定電圧が低いので何とかなる一方、X軸に関しては動作基準電圧を400Vとすると、ロードライン上はその倍くらいの電圧まで見えなければ、カットオフポイントすら確認できないのです。
しかもX軸の最大測定電圧が低い環境では、微小電圧の目盛りが水平に間伸びし、極端に寝たカーブになることで、とても見づらいデータになります。当然ロードラインも寝てしまうため、最適負荷のイメージ作りは思いのほか困難になります。
これはバイアス電圧の最大値にも言え、結局電圧増幅管などを調べてみるのですが、物珍しさでカーブを眺めるうちはまだしも、やがて実用性に乏しいと分かり放置されます。
VT127の例 カーブ角度は45〜60度くらい欲しい
おそらくカーブトレーサーが必要だと思う人は、例え簡単なシングルアンプだとしても、
「自分の撮影した自分の球の特性カーブから、自分だけのパワーアンプを設計し、それを実作したい。」のではないでしょうか。
そこで必要にして十分なスペックを持った、オシロスコープ用真空管カーブトレーサーアダプター作る計画を立てました。画像のデータ取り込みはデジカメでの撮影か、デジタルオシロならそのまま加工の工程に行けます。
扱う電圧は1000Vを超えますが、例えば360Vの両派整流用トランスでも、両端の電位差はピークで1000Vを超えているので、普通に注意していれば大丈夫です。
むしろ「まあボクは大丈夫だけど、キミたちはスゴク危険だからやめといた方がいいよ。」的に優越感を守るべく危険心理をあおる風潮があるため、過剰反応となる場合が多い気がします。
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ということで、これまでの計測経験から、スペックは次のようなります。
@ Ipカーブは8本とする。
・・・ これ以上多くても見にくく、むしろレンジや間隔を調整した方が良い。
A グリッドバイアスは0V〜−400Vまでとする。
・・・ カットオフポイントを考慮すると、意外と大きな値が必要ですが、ほぼカバーできます。
・・・ プラス側はオプションで考えます
B プレート電圧は1500Vまでとする。
・・・ 6CA7など無信号時750V程度までを目安としています。
・・・ トランスの変更で2000Vは容易です
D パラメーターとなるグリッド電圧は手動設定とする
・・・ この方が自由度が高まり、部分的な変則設定も作れます。
E 電子回路は極力減らし、スライダックを多用する。
・・・ 乱暴な扱いでも故障しにくく、回路が簡便化されます。
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つまり私が日頃行っている計測方法の問題点を、極力考慮したものとなっています。
一番大きな変更点は、ポラロイドの多重露出という部分を階段波としたことです。フィルムが手に入らない現在、これはどうしても必要です。
その階段波電圧は手動で設定し、それをトランジスタスイッチで切り替え、繰り返しループさせる訳です。メイン回路CT1はまだこれから実作とテストを行いますが、スタート地点としてはこんな感じになります。
問題なのはパラメーターであるグリッド電圧がマイナス電圧なので、PNPトランジスタでマイナス500V以上の高耐圧のものがあるかどうかです。
パルストランスは東栄変成器から出ている小型のOPTらしきもので、1次10kΩのセンタータップ、2次側が600Ωのものを使う予定です。理由は不明ですがネットカタログでは、型番は書いてありませんでした。
該当品がない場合にはVceo:−230Vの2SC1962を2個直列にして、またパルストランスの代わりに東栄変成器のJ1501W(100V:15Vx2)という電源トランスを代用して、2個のトランジスタそれぞれにトリガーをかけてみます。
階段波はバイアス回路の47kΩのボリュームによる分割で作ります。プラスバイアスはまだ考えていませんが、外部端子か簡単なプラスの定電圧回路を6個ほど用意します。
プレート回路の負荷抵抗は、バイアス電圧が0Vに近付いた時、電流値の上昇し過ぎを抑える重要なものです。ただし5極管接続の時はプレート電圧の低下で第2グリッドを傷めるため、極力小さくします。
第2グリッド電圧は、高圧電源などで別途用意するか、バイアス電源用のトランスで定電圧回路を内蔵します。またプレート電圧はAC60Hz(50Hz)のプラス側を使って、トランスによる昇圧後にそのままスイープ波形とします。
パルス発生回路はスピードが必要なく、高電圧をドライブするのでトランジスタで組みます。8波で1周を繰り返し、パルストランスでトランジスタをONさせます。
パルス回路と保護回路は電源を共有します。パルス回路の結合コンデンサの値はこれから決めます。
パルス回路自体は単安定フリップフロップにバッファをつけ、8個つなぐという野暮なものです。
今後の希望として出来れば各々のバイアス設定に、安価で小型のデジタルボルトメーターを付け、トランジスタスイッチには、手動用ショートカットスイッチを加えたいところです。
なおX軸、Y軸のレンジ切り替えは、オシロスコープのレンジ切り替えをそのまま使います。スライドトランスの容量は1A程で十分です。
真空管はいつの間にか、規格表というシールの張られたブラックボックスのような素子にされてきました。実態は複雑な電極が多様に織りなすアナログ電子部品の代表格なのに、あたかもオペアンプのような画一的扱いになっているわけです。
そのため枠にはまった保守的な考えが王道となり、誰もが同じような動作でも、疑問を持たないのかもしれません。しかしながらメーカーによる音の違いなどという、まるで女性のハンドバッグ売り場を彷彿とさせるような話題が出ると、どうしても寂しさを感ぜずにはいられません。
誰も知らない自分の球の3極管特性を計測し、そこに広がる電流軸と電圧軸から成るグリッドを基に、今までの常識を超えた幅広い領域でのアンプが設計できる。これがHVTCの世界です。
私は
「皆さんの球の、皆さんのデータによる、皆さんが設計したアンプ。」それを聴く姿が見たくて、想像したくてたまらないのです。
つづく
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